放射冷却素材ラディクールには塗料だけでなく、窓ガラスに貼るフィルムタイプもあります。屋根への塗装が難しい建物でも、窓面からの対策として導入できる点が特徴です。
屋根への塗装は建物全体への効果が見込める一方、稼働中の施設では足場や工期の確保が課題になることもあります。フィルムは窓単位で対策範囲を区切れるため、必要な窓から段階的に導入しやすいという運用面の違いもあります。
この記事では、自治体庁舎・工場・福祉施設という異なる建物用途で進んでいる放射冷却フィルムラディクールの導入事例を紹介します。特に社会福祉法人IGL学園福祉会様の事例では、既存の暑さ対策との比較データもあり、フィルムならではの効果が具体的に確認できます。
この記事でわかること
- 全国で初めて自治体庁舎に導入された放射冷却フィルムラディクールの事例(北海道幌加内町役場庁舎)
- 工場の大きな窓からの日射対策として、窓ガラスにフィルムを施工した事例(北海道内の工場)
- 庇による対策から放射冷却フィルムラディクールへ切り替えて約2.5℃の温度低下を確認した事例(社会福祉法人IGL学園福祉会様)
- 3つの事例から見える、フィルムが向いている建物・窓の条件
全国初、自治体庁舎への導入:北海道幌加内町役場庁舎
北海道幌加内町の役場庁舎1階窓ガラスに、放射冷却素材「Radi-Cool(ラディクール)」フィルムが施工されました。自治体庁舎への導入は全国で初めての取り組みです(2025年6月25日発表)。
「ゼロカーボンシティ」を目指すまちづくりとの連動
幌加内町は「人に自然にやさしい故郷づくり」をまちづくりの基本理念に掲げ、ゼロカーボンシティを目指して脱炭素社会の推進と気候変動への適応に取り組んでいます。快適な室内環境を維持しようとすると冷房設備への依存が高まり、エネルギー消費が増えるというトレードオフが課題でした。
放射冷却フィルムラディクールはゼロエネルギー(稼働のための電力を使わない)でエネルギー効率の向上と快適な室内環境の確保を同時に実現できるため、この理念に沿った対策として導入されました。出光エナジーソリューションズは、ラディクールジャパン株式会社の販売代理店として今回の施工に携わっています。
放射冷却素材「Radi-Cool(ラディクール)」の技術的な背景
Radi-Coolは、2017年に米国コロラド大学ボルダー校の研究チームが科学誌「サイエンス」で発表した技術を起源とする素材です。日射を高い割合で反射する技術と、高い放熱技術を組み合わせることで、製品表面への蓄熱を防ぎながら、裏面の熱も吸収・放射できる点が特徴とされています。
製品ラインナップには塗料・フィルム・ファブリックがあり、今回の役場庁舎ではフィルムタイプが窓ガラスに施工されました。
塗料タイプの検証データ
この施工にあわせて、塗料タイプの冷却効果を示す検証データも得られています。日産サービスセンター株式会社九州支社の屋根に塗料を施工した試験データ(日産自動車総合研究所による測定)がその一つで、フィルム・塗料という形態は異なるものの、同じRadi-Coolの技術に基づく効果として位置づけられています。
環境負荷の軽減と、庁舎で働く職員の労働環境の改善を同時に進める対策として導入された事例です。
出光エナジーソリューションズ 放射冷却素材「Radi-Cool ラディクール」を自治体庁舎に全国初導入!
大きな窓からの日射対策:北海道内の工場の事例
北海道内の工場でも、窓ガラスからの日射対策として放射冷却フィルムラディクールが施工されています。工場は屋根の面積が大きいため屋根側の対策が中心になりがちですが、この事例のように窓面から進める方法もあります。
工場で窓ガラスからの暑さ対策が必要になる理由
工場では、採光や作業性の確保のために大きな窓ガラスを設けているケースが多く、そこから入る日射がそのまま室内の温度上昇につながりやすい構造です。生産設備や照明そのものが発する熱に、窓からの日射熱が加わることで、屋根の対策だけでは室温がコントロールしきれないケースもあります。
フィルムが工場に適している理由
窓ガラスに直接貼るフィルムであれば、屋根の改修を伴わずに窓面からの入熱を抑えられます。稼働を止めにくい工場でも、窓単位で対策範囲を区切って施工できる点が、大空間の建物で採用しやすい理由の一つです。屋根への塗装工事のように足場や大がかりな工期を必要としない点も、稼働中の現場では扱いやすさにつながります。
導入前に整理しておきたい窓の条件
窓面からの対策を検討するときは、窓の面積・向き・既存の遮光対策の有無を先に整理しておくと、どの窓から手を付けるかを判断しやすくなります。南面・西面など日射を強く受ける窓から段階的に進める、という組み立ても可能です。
そのうえで現地調査を依頼すれば、窓の条件に合わせた施工範囲と、期待できる効果の見込みを具体的に確認できます。
庇では防ぎきれなかった暑さ対策:社会福祉法人IGL学園福祉会様の事例
広島県の社会福祉法人IGL学園福祉会様では、室内の温度上昇対策として窓ガラスに放射冷却フィルムラディクールを施工しました。従来の庇による対策との比較データがある事例です。
これまでの対策の限界
同施設ではこれまで、庇の設置による暑熱対策を行ってきました。対策を行う前(2022年8月)の園内平均温度は28.4℃、庇を設置した後(2023年8月)は27.5℃で、一定の効果はあったものの十分とは言えない状況でした。
フィルム施工後の温度の変化
フィルムへの切り替え後(2025年8月)の園内平均温度は25.9℃となり、2022年比で約2.5℃の低下を確認しています。この施工にあわせて、それまで設置していた庇は撤去されました。
庇のように日射を物理的に遮る対策では効果が頭打ちになっていた一方、窓ガラス面そのものに放射冷却効果を持たせるフィルムに切り替えたことで、従来対策を上回る温度低減が得られた事例です。
福祉施設で求められる暑さ対策の視点
福祉施設では、利用者の体調管理の観点から室内の温度環境が特に重要になります。庇の撤去によって採光を確保しながら温度上昇も抑えられる点は、日照と暑さ対策を両立させたい施設にとって参考になる事例です。
同施設では2022年の対策なしの状態から、2023年に庇を設置し、2025年にフィルムへ切り替えるまで、複数年にわたって対策を模索してきた経緯があります。1回の施工で完璧な答えにたどり着くのではなく、実際に運用しながら効果を確かめ、必要に応じて対策を見直していくという進め方も、福祉施設に限らず参考にできる考え方です。
放射冷却フィルムラディクールが向いている建物・窓の条件
自治体庁舎・工場・福祉施設という異なる建物用途の事例から、放射冷却フィルムラディクールが力を発揮しやすい条件が見えてきます。ここでは、検討時に確認したい条件と、3つの事例がそれぞれどの条件に当てはまるのかを整理します。
検討したい5つの条件
屋根への塗装工事が難しい建物や、窓面からの日射が室温上昇の主な要因になっている建物では、フィルムによる対策が選択肢になります。既存の庇・ブラインドなど遮光だけの対策で効果が頭打ちになっている場合も、社会福祉法人IGL学園福祉会様の事例のように切り替えを検討する価値があります。
フィルムは窓ガラスの外側から施工するのが基本です。建物全体の断熱を見直す前に、まず窓から入る熱が大きいかどうかを確認すると、対策の当たりをつけやすくなります。次の5つの条件に当てはまるほど、フィルムによる対策が向いています。
- 窓からの日射が強い(南面・西面など、日射を受ける窓の向きを確認する)
- 屋根への施工が難しい(屋根工事以外で打てる対策を検討する)
- 既存対策で暑さが残る(庇・ブラインドの効果が頭打ちになっていないか確認する)
- 施設を止めにくい(窓単位で段階的に施工できるかを検討する)
- 窓の条件を確認できる(枚数・サイズ・向き・施工方法を整理する)
あわせて、フィルムの種類(シルバー/ウィンドウ)ごとの遮光・透過性の違いと、耐久年数の目安(促進耐候試験の結果ではフィルムで5〜7年)も確認しておくと、比較がしやすくなります。
3つの事例が示していること
ここまでの条件は、実際の導入事例にも表れています。3つの事例がそれぞれどのような状況でフィルムを選んだのかを整理すると、自社がどれに近いかを判断しやすくなります。
| フィルムが選ばれた状況 | 事例 | 事例のポイント |
|---|---|---|
| 電力を使わずに室内環境を整えたい | 北海道幌加内町役場庁舎 | 自治体庁舎への導入として全国初 |
| 窓からの日射が室温上昇の要因になっている | 北海道内の工場 | 窓ガラスからの日射対策として施工 |
| 既存の遮光対策で効果が頭打ちになっている | 社会福祉法人IGL学園福祉会様 | 園内平均温度が2022年比で約2.5℃低下 |
よくある質問
Q. 放射冷却フィルムラディクールはどのような場所に施工されていますか?
A. 自治体庁舎の窓ガラス(北海道幌加内町役場庁舎)、工場の窓ガラス(北海道)、福祉施設の窓ガラス(社会福祉法人IGL学園福祉会様)に施工事例があります。建物用途を問わず、窓面からの日射が室温上昇の要因になっている建物が対象になります。
Q. 庇による対策とフィルムでは何が違いますか?
A. 庇は日射を物理的に遮る対策ですが、社会福祉法人IGL学園福祉会様の事例では庇設置後も27.5℃までしか下がりませんでした。放射冷却フィルムラディクールへの切り替え後は25.9℃まで低下しており、窓ガラス面そのものに放射冷却効果を持たせる方式のほうが高い効果を確認できています。
Q. フィルムは屋外側と屋内側のどちらに貼りますか?
A. Radi-Cool製品は屋外での使用を前提としており、窓ガラスの外側から施工します。施工にあたっては、屋外側から作業できるか、足場が必要かをあらかじめ確認しておくとスムーズです。
Q. フィルムの耐久年数はどれくらいですか?
A. 促進耐候試験の結果に基づく目安として、フィルムはおおむね5〜7年とされています。設置場所の環境によって変動するため、具体的な条件は施工事業者に確認することをおすすめします。
まとめ
放射冷却フィルムラディクールは、自治体庁舎・工場・福祉施設という異なる建物用途で、窓ガラス面からの暑さ対策として導入が進んでいます。
北海道幌加内町役場庁舎の事例では自治体庁舎として全国初の導入となり、社会福祉法人IGL学園福祉会様の事例では従来の庇対策を上回る約2.5℃の温度低下が確認されました。屋根への塗装が難しい建物や、既存の遮光対策で効果が頭打ちになっている建物では、フィルムによる対策が選択肢になります。
この記事のまとめ
- ✓自治体庁舎(北海道幌加内町役場庁舎)・工場・福祉施設など、建物用途を問わず窓ガラスへの施工事例がある
- ✓北海道幌加内町役場庁舎はゼロカーボンシティを目指すまちづくり理念に沿って導入された全国初の自治体事例
- ✓社会福祉法人IGL学園福祉会様では庇対策(27.5℃)からフィルムへの切り替えで25.9℃まで低下(2022年比約2.5℃低下)
- ✓屋根への塗装が難しい建物、既存の遮光対策で効果が頭打ちの建物はフィルムの導入を検討する価値がある
