放射冷却素材ラディクールの塗料は、すでに全国の工場・倉庫・公共施設などで導入が進んでいます。しかし「実際にどれくらい効果があるのか」は、空調の有無によってイメージしづらい部分もあります。
空調の無い建物では体感温度そのものを下げられるかが焦点になり、空調のある建物では消費電力の削減幅がどの程度になるかが焦点になります。同じ製品でも、建物の条件によって注目すべき数値が変わるため、事例を見るときも自社に近い条件を選んで参考にすることが大切です。
この記事では、空調のない倉庫(トクヤマ海陸運送株式会社様)と空調のある公共施設(福岡市「博多港ベイサイドミュージアム」)という条件の異なる2つの事例を取り上げ、それぞれで放射冷却塗料ラディクールがどのような効果を発揮したのかを紹介します。
自社の建物が「空調あり・なし」のどちらに近いかを念頭に置きながら読み進めることで、導入後の変化をイメージしやすくなります。
この記事でわかること
- 空調のない倉庫で、屋根への施工が倉庫内の温度にどう表れたか
- 空調のある公共施設では、効果が消費電力の削減という形で表れること
- それぞれの事例で、どのように施工し効果を確かめたか
- 空調の有無に関わらず放射冷却素材ラディクールが効果を発揮する理由
空調のない倉庫での暑さ対策:トクヤマ海陸運送株式会社様の事例
山口県のトクヤマ海陸運送株式会社様では、倉庫で働く従業員の作業環境改善を目的に、倉庫屋根4,250㎡へ放射冷却塗料ラディクールを施工しました。空調を持たない倉庫だからこそ、屋根そのものの蓄熱を抑えることが直接的な効果につながる事例です。
導入の背景
倉庫作業では、屋根や壁からの輻射熱がそのまま体感温度に直結します。空調を導入すれば室温は下げられますが、大空間の倉庫では稼働コストが大きく、屋根自体の蓄熱を抑える対策として放射冷却塗料ラディクールが選ばれました。
施工前後で確認した温度の変化
効果の確認は、施工前にあたる2023年と、施工後にあたる2024年の倉庫内温度を突き合わせる形で行われています。同じ建物を同じ季節どうしで比べているため、屋根の状態が変わったことによる違いを読み取りやすい進め方です。
なお同社の敷地内には、放射冷却塗料ラディクールを施工したA棟と、施工していないC棟があります。公表されているのは両棟の外観までで、棟どうしを同時期に比較した温度データは公開されていません。
倉庫内で確認された効果
検証期間中は、外気の最高気温平均が施工前の33.1℃から施工後は34.1℃とむしろ高くなる条件でしたが、倉庫内の実測平均温度は35.0℃から31.7℃へ3.3℃低下し、倉庫内最高温度も40.0℃から33.0℃まで下がりました。未施工時は40℃を超える日もあった倉庫内最高温度が、施工後は33℃以下に収まっている点も、現場で働く従業員にとっては実感につながりやすい変化です。
外気の条件がむしろ厳しくなった年に倉庫内の温度が下がっている点が、この事例の要点です。空調を持たない大空間では、屋根の蓄熱をどれだけ抑えられるかが室内環境をほぼ決めるため、屋根への施工がそのまま体感の変化として表れます。
空調がある施設の省エネ効果:福岡市「博多港ベイサイドミュージアム」の事例
福岡市は2040年度の温室効果ガス排出量実質ゼロをチャレンジ目標に掲げており、公共・民間施設のエネルギー使用量削減を推進しています。港湾エリアには太陽光の影響を受けやすい構造の建屋が多いことから、博多港ベイサイドミュージアムでは施設屋根517㎡に放射冷却塗料ラディクールを施工し、温度変化と省エネ効果を検証する実証事業が行われました。
実証事業に至った背景
港湾エリアの建屋は太陽光の影響を受けやすく、施設のエネルギー使用量をどう抑えるかが課題になっていました。脱炭素目標を掲げる福岡市は、放射冷却塗料の効果を実地で確かめる実証事業としてこの施工を位置づけています。
下塗りから上塗りまでの施工の進め方
施工は塗装前の状態から、下塗り、中塗り(2回)、上塗りという工程を経て仕上げられています。段階を踏んで塗り重ねることで、塗膜としての性能を安定させる施工方法が取られました。
屋根の塗装は既存の下地の状態に左右されるため、工程を分けて重ねていく進め方は、稼働中の施設で後から対策を入れる場合にも参考になります。
温度と消費電力で確認された効果
検証の結果、屋根の表面温度で最大34.3℃、屋根裏空間では最大9.7℃の温度低減が記録されました。空調のある施設でも、屋根そのものの温度が下がることで室内側の熱負荷が軽減されていることがわかります。
空調の消費電力については、塗装前後で日射量・最高気温がほぼ同等の条件を選んで比較したところ、最大31.7%、5ケース平均で18.1%の削減が確認されました。これは空調を使う施設において、放射冷却塗料ラディクールが電力削減という形で効果を発揮した実例です。
夜間の放熱まで含めた効果の見方
高い省エネ効果が得られた要因の一つに、放射冷却塗料ラディクールが「夜間も放熱し続ける」という特性があります。日射がない夜間でも吸収した熱を赤外線として放出し続けるため、翌朝にかけて室内・屋根裏空間が予冷された状態になり、朝の空調立ち上げ時にかかる電力負荷が軽減されます。日中の遮熱効果だけでなく、夜間の放熱までを含めた1日単位の効果として捉えることがポイントです。
この実証事業では、塗装前後の屋根表面温度をサーモカメラで撮影して比較しています。あわせて、全天日射量・最高気温と屋根裏空間温度の推移、同一気象条件下における日中消費電力の比較という2種類のグラフでも効果を可視化しています。
実証結果はPDF資料として公表されているほか、福岡市の公式サイトでも確認できます。検証の手順や条件まで確認できる点は、公共・民間施設が導入を検討する際の判断材料になります。
2つの事例からわかる放射冷却塗料ラディクールの共通点
空調のない倉庫と空調のある施設という、条件の異なる2つの事例に共通しているのは、屋根そのものの蓄熱を抑えるというアプローチです。
空調の有無に関わらず効果が出る理由
放射冷却素材ラディクールは、機能層に含まれる2種類のマイクロ粒子が、日射の反射と熱の放出をそれぞれ担う素材です。1種類目が近赤外線を反射して温度上昇を抑え、2種類目が温度の上がった熱を電磁波として外へ放出します。「熱を入れない」だけでなく「たまった熱を逃がす」働きを1つの表面で兼ねているため、空調の有無に関わらず屋根そのものの温度を下げるという同じメカニズムで効果を発揮します。
空調がある施設では消費電力の削減という形で、空調がない施設では体感温度・実測温度の低下という形で、それぞれ現れ方は異なりますが、根本にある「屋根の蓄熱を抑える」という効果は共通しています。
導入を検討する際に押さえたいポイント
自社の建物が空調ありかなしかによって、期待できる効果の現れ方(電力削減か、体感温度の改善か)は変わります。まずは自社の建物がどちらの条件に近いかを整理したうえで、屋根の材質・面積・現状の空調状況を踏まえて検討することが有効です。
| 比較の観点 | 空調なし:トクヤマ海陸運送株式会社様 倉庫 | 空調あり:福岡市「博多港ベイサイドミュージアム」 |
|---|---|---|
| 施工箇所 | 倉庫屋根 | 施設屋根 |
| 施工面積 | 4,250㎡ | 517㎡ |
| 施工の目的 | 従業員の作業環境改善 | 温度変化と省エネ性の検証 |
| 効果の現れ方 | 倉庫内の実測温度の低下 | 空調の消費電力の削減 |
| 効果を測る指標 | 倉庫内の実測平均温度 | 空調の日中消費電力 |
| 施工前の値 | 35.0℃ | -(削減率で公表) |
| 施工後の値 | 31.7℃ | 最大31.7%削減 |
| 比較のしかた | 施工前(2023年)と施工後(2024年)を比較 | 塗装前後で日射量・最高気温が近い日を比較 |
また、今回の2事例のように、施工前後を比較できる形で効果を確かめると、導入の判断材料を客観的なデータとして残せます。トクヤマ海陸運送株式会社様の事例のように施工前後の同じ季節どうしで比べる方法、博多港ベイサイドミュージアムの事例のように塗装前後で気象条件がほぼ同じ日を選んで比べる方法など、建物の使い方に応じて確かめ方を工夫できる点も参考にしたいポイントです。
施工前に確認しておきたいこと
2つの事例を踏まえると、導入を検討する際は次の5点を確認しておくと判断がしやすくなります。自社の条件に当てはめて埋めていくと、施工事業者に相談する際の情報整理にもそのまま使えます。なお屋根用の塗料は遮熱性能に関する規格(JIS K 5602/K 5675/K 5603等)が定められているため、対応状況もあわせて確認しておくと比較がしやすくなります。
- 空調の有無(どちらに近いかで、期待する効果の現れ方が変わる)
- 屋根の状態(材質・面積・劣化の程度を確認する)
- 既存塗膜・防水(塗り重ねる下地の状態を確認する)
- 施工実績(建物用途・施工面積など、自社と条件が近い事例を比較する)
- 効果の検証方法(施工前後、または施工ありなしを比較できる形を組む)
よくある質問
Q. 空調がない倉庫でも放射冷却塗料ラディクールの効果はありますか?
A. 効果が確認されています。トクヤマ海陸運送株式会社様の事例では、気温条件が施工前より厳しかったにもかかわらず、倉庫内の実測平均温度が35.0℃から31.7℃へ低下しています。空調に頼らず屋根そのものの蓄熱を抑える対策として効果が確認されています。
Q. 空調がある施設ではどのような効果が期待できますか?
A. 福岡市「博多港ベイサイドミュージアム」の事例では、屋根裏空間で最大9.7℃の温度低減とあわせて、空調の消費電力が最大31.7%、5ケース平均で18.1%削減されました。屋根の温度が下がることで空調の負荷そのものが軽くなる効果です。
Q. 夜間も効果があるのはなぜですか?
A. 放射冷却素材ラディクールは吸収した熱を赤外線として外部へ放出する仕組みのため、日射のない夜間でも放熱を続けます。この特性により翌朝にかけて予冷状態がつくられ、空調の立ち上げ負荷が軽くなることが省エネ効果を後押ししています。
Q. 施工の効果はどうやって確認すればよいですか?
A. 施工前後の同じ季節どうしで比べる方法と、塗装前後で気象条件がほぼ同じ日を選んで比べる方法があります。気温や日射の条件を揃えて比較することで、施工そのものの効果を切り分けて確認できます。
まとめ
放射冷却塗料ラディクールは、空調のない倉庫・空調のある施設のいずれでも、屋根の蓄熱を抑えるという同じメカニズムで効果を発揮します。
トクヤマ海陸運送株式会社様の事例では気温条件が厳しくなる中でも倉庫内温度が3.3℃低下し、福岡市「博多港ベイサイドミュージアム」の事例では空調消費電力が最大31.7%削減されました。自社の建物条件に置き換えて、どちらの効果が主に期待できるかを整理してみることが検討の第一歩になります。
この記事のまとめ
- ✓空調なしの倉庫では、屋根の蓄熱を抑えることが倉庫内の実測温度の低下として表れる(トクヤマ海陸運送株式会社様)
- ✓空調ありの施設では、同じ対策が空調の消費電力の削減として表れる(博多港ベイサイドミュージアム)
- ✓夜間も放熱し続ける特性が、翌朝の立ち上げ負荷を軽減し省エネに寄与する
- ✓条件を揃えて施工前後を比べることが、効果を客観的に把握するうえで有効
