夏場の電気代のうち、空調にかかる費用の大きさに頭を悩ませている方は多いのではないでしょうか。電気料金の上昇が続く中、設定温度や運転時間の見直しだけでは削減に限界を感じるケースもあります。
空調の消費電力は、建物の中に入ってくる熱の量に大きく左右されます。屋根や窓から入る熱を減らせれば、同じ室温を保つために空調が処理すべき熱(空調負荷)が小さくなり、電気代の削減につながります。
この記事では、空調の省エネを建物側から進める方法として、放射冷却素材ラディクールが電気代の削減につながる仕組みを解説します。あわせて、屋根に放射冷却塗料ラディクールを施工した福岡市「博多港ベイサイドミュージアム」の実証事業と、窓ガラスに放射冷却フィルムラディクールを施工した北海道の自治体庁舎の事例を紹介します。
この記事でわかること
- 空調の電気代が建物に入る熱によって増える理由
- 放射冷却素材ラディクールが昼と夜の両方で空調負荷を下げる仕組み
- 屋根(塗料)と窓(フィルム)それぞれの省エネ事例
- 導入を検討する際に確認したい建物の条件と準備したいデータ
空調の電気代が膨らむのは「建物に入る熱」が原因
空調の省エネを考えるときは、まず空調が何に対して電力を使っているのかを整理することが出発点になります。冷房時の空調は、室内に入ってきた熱を外へ運び出すために電力を消費しています。
夏の空調負荷は屋根と窓から入る熱で大きくなる
冷房時に空調が処理する熱には、人や照明、機械設備から発生する熱と、建物の外から入ってくる熱があります。このうち外から入る熱は、日射を直接受ける屋根や、日射が室内まで届く窓ガラスから多く入り込みます。
屋根は日中に強い日射を受け続けるため表面が高温になり、その熱が屋根裏や室内へ伝わります。窓ガラスは壁や屋根に比べて熱を通しやすく、日射の一部がそのまま室内に入るため、熱の入口になりやすい部位です。
空調の電気代を下げるには、空調機の効率を上げるだけでなく、屋根や窓から入る熱そのものを減らすことが有効です。入ってくる熱が減れば、同じ設定温度でも空調機の運転負荷が軽くなります。
折板屋根や大きな窓のある建物ほど空調が効きにくい
工場・倉庫・物流施設などで多く使われる折板屋根(金属板を折り曲げて波型に加工した屋根)は、太陽光の影響を受けやすく、断熱性能が低い構造です。金属は熱を伝えやすいため、屋根表面で受けた熱が短時間で屋根裏空間に伝わり、室内の温度を押し上げます。
採光のために大きな窓ガラスを設けている庁舎・オフィス・商業施設でも、窓から入る日射が室温上昇の大きな要因になります。
空調の省エネ対策と放射冷却素材の位置づけ
空調の省エネ対策は、大きく「設備側」と「建物側」の2つに分けて考えると整理しやすくなります。放射冷却素材ラディクールは、このうち建物側の対策に位置づけられます。
設備側の対策と建物側の対策
設備側の対策には、高効率な空調機への更新や、設定温度・運転時間の見直し、室外機まわりの環境改善などがあります。これらは空調機の効率や使い方を改善する方法で、建物に入ってくる熱の量自体は変わりません。
建物側の対策は、屋根や窓から入る熱を減らして空調負荷そのものを小さくする方法です。設備側の対策と組み合わせることで、空調機の更新だけでは届かない削減の余地を掘り起こせます。
断熱・遮熱と放射冷却素材ラディクールの違い
建物側の対策として代表的なのが断熱と遮熱です。断熱は熱が伝わる速度を遅らせる技術で、いったん温まると冷めにくいという特性があります。遮熱は日射を反射して入る熱を減らす技術ですが、反射しきれずに吸収した熱は内部に残ります。
放射冷却素材ラディクールは、日射を反射する働きに加えて、吸収した熱を赤外線(電磁波)として外へ放出する働きを持っています。熱を「入れない」だけでなく「逃がす」こともできるため、夜間も含めて空調負荷の軽減に働く点が、断熱・遮熱との大きな違いです。
放射冷却素材ラディクールが空調の電気代を下げる仕組み
放射冷却素材ラディクールは、稼働のための電力を使わずに建物の温度上昇を抑える素材です。空調の省エネにつながる仕組みを、日中と夜間、施工する場所に分けて見ていきます。
日中:日射を反射し、吸収した熱を放出して屋根の温度上昇を抑える
放射冷却素材ラディクールの機能層には、性質の異なる2種類のマイクロ粒子が含まれています。1種類目の粒子が近赤外線を反射して温度上昇を抑え、2種類目の粒子が温度の上がった表面から熱を電磁波として放出します。
この2つの働きを同時に持つことで、日射の強い日中でも屋根表面に熱がたまりにくくなります。屋根の温度が上がらなければ、屋根裏や室内に伝わる熱も減ります。
夜間:放熱を続けて翌朝の空調の立ち上がり負荷を減らす
放射冷却による放熱は、日射のない夜間も続きます。日中に建物にたまった熱が夜のうちに外へ放出されるため、翌朝にかけて屋根裏や室内が冷えた状態(予冷状態)になることが期待できます。
空調は運転開始直後の立ち上がり時に大きな電力を使います。朝の時点で室内の温度が下がっていれば立ち上がり時の負荷が軽くなり、1日を通した消費電力の削減につながります。
塗料は屋根、フィルムは窓:熱の入口ごとに選べる2つの形態
放射冷却素材ラディクールには、屋根などに塗る塗料と、ガラス面に貼るフィルムのラインアップがあります。塗料は工場・倉庫・商業施設の屋根や屋外設備の外面に、フィルムはビル・工場・商業施設のガラス窓に用いられます。
熱の入口が屋根なのか窓なのかによって、選ぶ形態が変わります。屋根と窓の両方から熱が入る建物では、塗料とフィルムを組み合わせて熱の入口をまとめて対策することも検討できます。
屋根の事例:放射冷却塗料ラディクールを施工した博多港ベイサイドミュージアム
屋根から入る熱を減らすことで空調の消費電力がどれだけ変わるのかを示したのが、福岡市「博多港ベイサイドミュージアム」での実証事業です。放射冷却塗料を用いた省エネ実証事業として、政令指定都市で初めての取り組みとなりました。
導入の背景:断熱性能の低い折板屋根での実証
福岡市は2040年度の温室効果ガス排出量実質ゼロをチャレンジ目標に掲げ、博多港でも脱炭素の取り組みを進めています。港湾エリアには倉庫や工場が多く立地しており、そこで多く見られる折板屋根が省エネの課題になっています。
そこで、折板屋根を持つ博多港ベイサイドミュージアムの屋根517㎡に放射冷却塗料ラディクールを施工し、温度変化と空調の消費電力を塗装前後で比較する検証が行われました。事業期間は2025年5月28日から2026年1月30日までで、夏場の屋根や室内の温度変化を計測して省エネ効果が検証されています。
省エネの成果:同一気象条件で比べた日中消費電力量
空調の消費電力は天候によって大きく変わるため、この実証では、塗装前後で全天日射量の差が0.3MJ/日未満、最高気温の差が1.0℃未満という、気象条件がほぼ同じ日を選んで比較しています。条件を揃えることで、天候の違いではなく塗装による効果を切り分けて確認できます。
その結果、同一気象条件下の日中消費電力量は、塗装前の131.5kWhから塗装後は89.8kWhへと減少しました。これは最大31.7%の削減にあたり、比較した5ケースの平均でも18.1%の削減が確認されています。
博多港ベイサイドミュージアムの実証結果(福岡市公表資料より。平均値は5ケースの平均)
| 指標 | 最大値 | 平均値 |
|---|---|---|
| 空調の日中消費電力量の削減率 | 31.7% | 18.1% |
| 屋根表面温度の低減幅 | 34.3℃ | - |
| 屋根裏空間温度の低減幅 | 9.7℃ | - |
効果の要因:屋根裏空間の温度低下と夜間の放熱
消費電力が下がった背景には、屋根と屋根裏空間の温度低下があります。塗装後は屋根表面温度で最大34.3℃、屋根裏空間温度で最大9.7℃の低減が確認されており、屋根から室内へ伝わる熱が大きく減ったと考えられます。
さらに、夜間も放熱を続ける放射冷却の特性によって翌朝にかけて空間が予冷状態となり、空調の立ち上がり時の電力負荷が軽減されたと考えられています。日中の入熱を抑える効果と夜間の放熱効果が重なったことが、省エネ効果につながった要因と考えられます。
窓の事例:放射冷却フィルムラディクールを施工した北海道の自治体庁舎
窓から入る熱への対策として放射冷却フィルムラディクールを導入しているのが、北海道の幌加内町役場と和寒町役場です。両庁舎での取り組みは、省エネルギーの分野で表彰を受けています。
導入の背景:窓ガラスから入る熱と冷房への依存
近年は北海道でも夏季の気温上昇が進み、庁舎の暑熱対策が課題になっています。快適な室内環境を保とうとすると冷房設備への依存が高まり、その分エネルギー消費が増えるというトレードオフが生じます。
幌加内町はゼロカーボンシティを目指して脱炭素社会の推進に取り組んでおり、追加のエネルギーを使わずに室内環境を改善できる対策として、庁舎1階の窓ガラスに放射冷却フィルムラディクールが施工されました。和寒町でも、夏季の暑熱対策と省エネルギー化の両立を目的に、庁舎1階の窓ガラスへの施工が行われています。
省エネの成果:北海道省エネルギー・新エネルギー促進大賞の省エネ部門で奨励賞
幌加内町役場(2025年6月発表)と和寒町役場(2026年7月発表)の窓ガラスへの施工は、「放射冷却素材『ラディクール』を活用した北海道自治体における省エネルギー推進事業」として進められてきました。この事業が、令和8年度 北海道省エネルギー・新エネルギー促進大賞の省エネ部門で奨励賞を受賞しています(2026年10月1日発表)。
評価されたのは、北海道内の自治体施設への導入推進に加え、体験会などを通じた認知活動や、暑熱対策・省エネルギーへの貢献です。
効果の要因:窓面で日射を反射し熱を放出する仕組み
放射冷却フィルムラディクールは窓ガラスの屋外側に貼ることで、日射を反射して入る熱を抑えるとともに、ガラス面にたまった熱を放出します。稼働のための電力を使わずに窓からの入熱を減らせるため、冷房に頼る度合いを下げることが期待できます。
空調の省エネに放射冷却素材ラディクールを導入する際のポイント
放射冷却素材ラディクールによる省エネ効果は、建物の構造や空調の使い方によって現れ方が変わります。導入を検討する際は、次の3つの観点で整理しておくと判断がしやすくなります。
効果が出やすい建物の条件
博多港ベイサイドミュージアムの事例のように、断熱性能の低い折板屋根の建物では、屋根からの入熱を抑えることによる省エネ効果が期待しやすくなります。日射を遮るものが少ない平屋建ての工場・倉庫や、屋根面積の大きい施設も同様です。
窓の面積が大きく、南面や西面から強い日射が入る建物では、フィルムによる窓の対策が選択肢になります。日中に空調を長時間稼働させている施設ほど、入熱を減らしたときの電力削減の余地も大きくなります。
電気代の削減効果を試算するために準備したいデータ
導入効果を具体的に見積もるには、現状の空調の使い方を数値で把握しておくことが大切です。特に、空調の電力使用量や運転時間がわかると、施工後の削減効果を比較しやすくなります。
- 月別・時間帯別の電力使用量(電力会社の検針データやデマンドデータ)
- 空調機の台数・能力・運転時間・設定温度
- 屋根の材質・面積・形状と、窓ガラスの面積・向き
- 夏場の屋根裏・室内の温度(計測している場合)
脱炭素(Scope2)の取り組みとしての位置づけ
空調の消費電力を減らすことは、電気代の削減だけでなく、購入電力に由来するCO2排出量(Scope2)の削減にもつながります。脱炭素目標を掲げる企業や自治体にとって、放射冷却素材ラディクールは電力を使わずに排出量を減らせる対策の一つです。
出光エナジーソリューションズでは、放射冷却素材ラディクールのご提案から塗装工事まで対応しています。空調の省エネを含む脱炭素の取り組みを幅広く相談したい場合は、ワンストップサポートも活用できます。
よくある質問
Q. 放射冷却素材ラディクールで空調の電気代はどれくらい下がりますか?
A. 福岡市「博多港ベイサイドミュージアム」の実証事業では、同一気象条件下で比較した空調の日中消費電力量が131.5kWhから89.8kWhに減少し、最大31.7%、5ケース平均で18.1%の削減が確認されました。削減幅は建物の構造や空調の使い方によって変わります。
Q. 断熱材や遮熱塗料と何が違いますか?
A. 断熱は熱の伝わりを遅らせ、遮熱は日射を反射して入る熱を減らす技術です。放射冷却素材ラディクールは日射の反射に加えて、吸収した熱を赤外線として外へ放出するため、夜間も含めて空調負荷の軽減に働きます。
Q. 夜間も省エネ効果があるのはなぜですか?
A. 放射冷却による放熱は日射のない夜間も続くため、翌朝にかけて屋根裏や室内が予冷状態になります。その結果、朝の空調の立ち上がり時にかかる電力負荷が軽くなります。
Q. 塗料とフィルムはどう使い分ければよいですか?
A. 屋根から入る熱が多い建物には塗料、窓から入る日射が多い建物にはフィルムが適しています。屋根と窓の両方から熱が入る建物では、組み合わせて対策することも検討できます。
まとめ
空調の省エネは、空調機の改善に加えて、建物に入る熱を減らす視点を持つことで一段と進めやすくなります。放射冷却素材ラディクールは日射の反射と熱の放出を同時に行い、日中と夜間の両方で空調負荷を軽減します。
屋根に放射冷却塗料ラディクールを施工した博多港ベイサイドミュージアムでは、同一気象条件下の日中消費電力量が131.5kWhから89.8kWhへ減少しました。窓に放射冷却フィルムラディクールを施工した北海道の自治体庁舎の取り組みは、省エネルギーの分野で表彰を受けています。自社の建物で熱の入口がどこにあるかを確認することが、空調の省エネを進める第一歩です。
この記事のまとめ
- ✓空調の消費電力は、屋根や窓から入る熱の量に左右される
- ✓放射冷却素材ラディクールは日射の反射と熱の放出で、昼も夜も空調負荷を軽減する
- ✓博多港ベイサイドミュージアムでは日中消費電力量が131.5kWh→89.8kWh(最大31.7%削減)
- ✓窓には放射冷却フィルムラディクール。北海道の自治体庁舎での取り組みが省エネ部門で受賞
- ✓熱の入口(屋根・窓)と空調の使用データを整理することが導入検討の第一歩


